和菓子

Case Study 03

安政3年(1856年)創業、京都の西陣エリアに佇む老舗和菓子店「京菓子司 金谷正廣」は 登録商標『真盛豆』をはじめ、茶人や通人に長く愛されてきた歴史のある和菓子を制作しています。その6代目、金谷 亘 氏との共同実験によりこれからの和菓子を探求しています。

伝統の分解と、時代に合わせたアップデート

ベースとなったのは、金谷正廣様が創業当初から手がける代表銘菓「真盛豆(しんせいまめ)」です。 その起源は室町時代まで遡ります。高僧・真盛上人が考案された当時は、砂糖が存在しない時代。煎った大豆に塩を振り、大根の葉の粉末をまぶしたものでした。その姿が「苔のむす豆」と喩えられたことから、現在の青のりに近い緑色の見た目をしていたといいます。

その後、初代・金谷正廣氏が製法を譲り受け、時代に合わせた改良を重ねることで、現在の洗練された銘菓へと昇華させました。

  • 味の変遷(塩から甘みへ): 江戸時代後半に砂糖が普及したことで、お茶菓子に求められる味わいが「塩味」から「甘味」へとシフトしていきました。

  • 素材の進化(より豊かな恵みへ): 流通の発展に伴い、大根の葉に代わって汽水域(海の近く)で採れる良質な「青のり」が、また通常の大豆に代わって大粒で豊かな風味の「丹波黒大豆」が手に入りやすくなり、素材のアップデートへとつながりました。

これらはまさに、当時の最先端の社会システムや物流の変化(テロワール)に合わせた、見事な「素材のアップデート」の歴史でした。

終わりなき実験:色彩の制約を超えて

現代の真盛豆は、大根の葉の緑色を継承して青のりが使われています。しかし、「もしこの『色彩の制約』から離れ、異なる素材を掛け合わせたらどうなるか?」という問いから、近年、金谷正廣様ではほうじ茶やきな粉、抹茶などを用いた様々な実験的開発が進められていました。

ここに京都研究所の知見が合流し、新たな共同実験がスタートいたしました。 弊社マテリアルアーカイブを基に、多様な原材料の選定、ミリグラム単位での微妙な分量調整を幾度も反復。伝統の技法を持つ職人の手仕事と、研究所の客観的なアプローチが融合した結果、これまでにない新しい表現を持つお菓子へと到達することができました。ただし、このプロセスが教えてくれたことが多く、古くから愛されてきたものには理由があり、青海苔を香るお菓子は唯一無理の完成度。調和そのものです。

歴史が育んだ生きた知識が、現代の感性と交差して生まれた新しい試みが、次の世代のお茶のお供になりますように。