お茶屋

Case Study 04

京都最古の花街、上七軒。室町時代に北野天満宮の再建で余った木材を使い、七軒の茶店(これが「上七軒」の名の由来です)を建てたことから始まったという、独自の歴史をもつ特別な場所です。かつて西陣の旦那衆の洗練された美意識に支えられ、今なお情緒豊かな街並みが残るこの地に佇む一軒の元お茶屋を、ひとつの家族が未来を紡ぐ「住まい」へと再生するプロジェクトが進行しています。

本プロジェクトでは、西洋由来の「建築家」という近現代の職能をあえて介していません。現場で木を組み墨を惹く大工と、土と語らう左官の手仕事だけで空間を構築する。それこそが、素材の理(ことわり)と伝統の職人技術を尊ぶ、京都研究所らしいアプローチです。

かつて宮中の建築組織において、壁を塗る職人を「左官」と呼んだのに対し、木を扱う大工の長は「右官(うかん)」と称されていました。私たちはこの「右官と左官」という、古来より日本の美を両翼で支えてきた職人たちの阿吽の呼吸(あうんのこきゅう)だけで、この現代の住居をつくり上げています。

二階:芸妓文化の記憶を宿す、直線と意匠の修復

かつて華やかな宴が繰り広げられた二階空間は、当時の姿をほぼそのままの形で残します。右官(大工)の卓越した技により、当時の端正な直線の美しさや部屋を仕切る格子・襖の意匠を緻密に修復。左官が天然素材のみを用いた伝統技法で壁を塗り直します。かつてこの場所で生きていた芸妓たちの息遣いや、花街の歴史文化を現代に生々しく伝える、静謐な空間です。

一階:庭を抱き込む、現代の開放的な暮らし

一階は二階の端正な意匠とは対照的に、現代のライフスタイルに寄り添う開放的なワンルームへと再構成します。職人の手仕事による力強い石積みが、広々としたガラス窓を通して外の庭とゆるやかにつながり、内と外が一体となった心地よい光と風を取り込みます。古き良き日本の空間美をベースにしながら、現代の家族が快適に、豊かに暮らせる機能性を両立させました。

職人の手仕事による、生きたケーススタディ

本プロジェクトもまた、完成して終わりではない未完成のプロジェクトです。右官と左官という、日本の空間を支えてきた職人たちの手仕事の価値を、いまのリアルな生活のなかでどう機能させ、次世代へつないでいくか。現場での日々の対話と実験から、これからの「日本の住まい」のあり方を探求しています。